デトロイト その1
デトロイトって街は、印象的な街だ。
デトロイト以外の場所で、アメリカ人にデトロイトに行ったっていうと、なんで行ったの?って理由を聞かれたり、あんな危ないところによく行くねぇって感心されたり、とにかくイメージが悪い。
前情報でも、その荒廃っぷりや治安の悪さは聞いていたけど、実際行ってみると想像以上の荒れ具合に戦慄を覚えた。
まず、中心部のオフィス街でも人が少ない。
フォードビルやクライスラービルっていうような、大手の名前のビルですら空室募集の掲示がある。
逆にその中にあって、市の肝いりで作られたGMタワーだけが異様に輝いている。
そしてビジネス街の周辺には廃墟になった建物や、更地が広がり、さらに郊外には朽ちかけた住宅街が続く。
今回泊まっていたのは、中心部から車で10分、歩いて30分くらいの、昔からの住宅地(だったところ)にある、ホステルだった。
チェックインのとき、管理人のジェフに説明されたのは、そこより西側に行くとあまり治安が良くないってことと、そこで人にあったら、慌てずに笑顔で「ハイ!」って挨拶しろってことだった。
ひとまず周辺を歩いてみた。
マイナス15度でしかも雪道ってこともあるけど、人がほとんどおらず、ゴーストタウンっていうイメージがしっくりくる。
そんな中で歩いている人に会うと結構身構える。
ジェフのアドバイスでビビってるのもあるけど、明らかに見た目がヤバそうな感じの人だったり、ホームレスの人っぽい感じの人達だからだ。
そこで、今回シアトル便で見たゾンビ映画「ウォーム・ボディーズ」を思い出した。
荒廃した街をゆっくり歩く感情の無いゾンビ達。
デトロイトを歩いていて感じたのは、まさにゾンビ映画の世界だなぁってことだった。
だから初めて人とすれ違うってときには、相当緊張した。
だけど3mくらいまで近づいた時、彼は口角を少し上げた笑顔で静かに「ハイ!」って挨拶してくれた。
そして挨拶しながら、彼は手に持っていた手袋を落としたのだった。
そこで気付いた。
緊張していたのは、自分だけじゃなくて、相手もそうだったってことに。
さっきのゾンビ映画、最初は憎み合い殺しあう人間とゾンビだったけど、そのうちひと組のゾンビと人間が恋に落ち、お互いが理解しあえることを発見したところから、やがてゾンビが感情を取り戻し、人間と共生できるようになるって筋書きだった。
デトロイト住民をゾンビ扱いすることに問題があるのはわかってる。
でも、そのくらい自分は彼らを恐れていたってことに気付いた。
相手からしてみれば、こんなところを歩く一人の東洋人は、相当不審に思っていただろう。
こういう感覚に至ってから、デトロイトの街と自分の距離がぐっと近づき、フラットな感覚でデトロイトを見ることができるようになった。
次回はその後のフラットに見られるようになってからのデトロイトについて。